11月19日の日経新聞の記事によると、「世界で美術品の売買が低迷している。米中への景気懸念や高金利で懐が厳しくなった。コレクターが高値購入に二の足を踏んでおり、2024年上半期の世界のオークション販売額は前年同期比で3割減少した。オークション大手の米サザビーズの経営が悪化するなど、影響が広がっている」と報じられている。
確かに、アート市場は世界的に見れば経済状況や地政学的リスクに影響されやすい。しかし、こうした世界の動向を日本がそのまま受け入れる必要はない。むしろ日本市場は、今こそ独自の成長の可能性を見出すべき時である。
2020年、コロナ禍の影響で多くのギャラリーがスペースを閉鎖せざるを得なかった。アートの売上も一時的に減少したが、オンライン販売がその空白を補完した。
2021年にはその反動でアート市場は急回復し、特に欧米では株高や物価高、賃金上昇が続く中で購入意欲が高まった。加えて、コロナ禍で旅行や飲食といったレジャーに使えなかった資金が、アートや株式、不動産、金といった資産商品に向けられたことも、アート市場の伸びを後押しした。
一方、中国はゼロコロナ政策による経済停滞が続き、現在でもアート市場への影響は顕著だ。こうした背景を考えると、日本のアート市場は、世界の景気変動に振り回されることなく、どのような成長戦略を描くかを考えなければならない。
アートは基本的に長期的な資産として捉えられるもので、一日で大きく価格が変動するような投機的な商品ではない。特に最近では、インターネットやSNSの普及により、プロの専門業者と購入者との情報格差が縮まりつつある。
かつてはギャラリストが持つ情報をコレクターが一方的に信頼して購入することが一般的だった。しかし、現在では購入者自身が低コストで多くの情報を得られるようになり、プロ顔負けの知識を持つコレクターも増えている。
例えば、若いコレクターがSNSを活用してアーティストの活動や市場価値を直接調査し、比較的手頃な価格で将来的な価値が期待できる作品を早期に購入するケースが増えている。このような情報戦の時代において、ギャラリーと購入者は、よりオープンな情報共有を行い、対等な関係を築くことが求められている。
しかし、日本では依然としてアート市場の成熟度が低く、カジュアルにギャラリーで質問したり、価格を尋ねたりする文化が根付いていない。
欧米では気軽に価格を尋ねることやギャラリースタッフとコミュニケーションをとることが普通だが、日本ではアートを売買する現場自体が一般人には馴染みが薄い。
こうした文化の違いが、日本のアート市場の拡大を妨げる要因となっている。
また、現金を多く保有する70代以上の保守的な日本人が、抽象的で理解が難しい現代アートを購入する可能性は低い。
ここで期待されるのは、30~40代の比較的若い世代だ。
この層は資産規模が小さいものの、銀行預金に留めず積極的に投資を考える意識が高い。
彼らにアートを資産としてコレクションする楽しみを知ってもらうことが、日本市場の活性化には不可欠だ。
日本のアート市場は、世界全体の市場規模の1%にも満たない小さな存在だが、これは逆に、発展の余地が大きいことを意味する。
現在、世界の金利高や景気不安で苦境に立たされている他国の市場とは異なり、日本は独自のアプローチでアートを楽しむ文化を根付かせることが可能だ。
例えば、初心者でも手に取りやすい価格帯の作品を積極的に提供し、ギャラリーでの質問や購入体験をカジュアルにする取り組みを進めるべきだろう。
また、アートの魅力を「インテリア」ではなく「資産」として伝える啓蒙活動を強化することも重要だ。
そのためには、オンラインやSNSを活用した情報発信や、セミナーやイベントを通じた教育的アプローチが求められる。
アート市場における日本の役割は、世界の市場動向に振り回されるのではなく、独自の文化と価値観を育てることにある。
特に30~40代の世代に向けて、アートの購入体験を身近にし、長期的な資産としての魅力を伝えることで、持続可能な市場の形成が可能となる。
アートはただの投資商品ではない。それは文化の一部であり、社会に新たな価値を創出する力を持っている。
日本が独自のアート市場を構築するためには、この力を最大限に活用し、誰もが気軽にアートを楽しみ、投資できる環境を作ることが重要である。
世界が低迷する中で、日本は自らの可能性を信じ、独自の道を切り開くべきである。